イジワル社長は溺愛旦那様!?

夕妃の華奢な手首が、弟につかまれた。


「やっぱり、やめよう」
「え……?」
「結婚、やめよう!」


彼はこの結婚が決まってから三か月、ずっと沈み込んでいた。

この結婚は、夕妃を不幸にするのではないかと思っていた。

それでも朝陽の未来にとってはとても大事な結婚だった。

それがわかっていた夕妃は、言葉を尽くして朝陽を説得し、今日のこの日を迎えたのだ。

夕妃にとって弟は何物にも代えがたい宝物で、彼が落ち込んでいるのを見るのはとてもつらかったが、それでもその悲しみはいつか時間が解決してくれると信じていた。


「朝陽くん……」


どうやって弟を説得したらいいのか。
あれほど話し合ったのに、どうして受け入れてくれないのか。
自分はこれでいいと思っているのに――。


さらに口を開きかけた次の瞬間、夕妃の体はふわっと宙に浮いていた。

なんと朝陽が夕妃をかついで、肩に乗せたのだ。


「きゃあっ!」


夕妃は悲鳴をあげ、チャペル内で式を見守っていたホテルの従業員たちが、驚いたように駆け寄ってくる。


「はっ、花嫁を下ろしてくださいっ!」
「お客様っ!」


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