イジワル社長は溺愛旦那様!?

だが神尾の顔がゆっくりと離れていくのにつれて、彼が今自分の頬にキスをしたのだと、ようやく気が付いた。

みるみるうちに、夕妃の顔は真っ赤に染まる。


(な、な、な、なんでっ……!)


声が出ないまま、口をパクパクさせると、神尾はクスッと笑って切れ長の目を細める。


「――失礼。まじめな顔が面白くて、つい」

(ええっ!?)


「ですが猫はかわいがるものですしね」


続けて、どこか楽しそうな声でそういうと、くるりと踵を返し病室を出て行った。


(ま、待って、待って!)


心臓が異常なまでに胸の中で跳ねまわり、口から飛び出しそうになる。
この状況で、なぜ自分のまじめな顔が面白くてキスする流れになるのか、まったくわからない。


(猫みたいにかわいがる……これも“責任”の一環ってこと? ものすごーく動物愛護の精神が強いってこと!?)


訳が分からなくなって、おかしなことを考え始める夕妃である。


結婚式から逃げ出したことで、もうこれ以上驚くことはないだろうと思っていた。

だが現実はどうだ。
自分が想像しているよりもずっと、大変なことになってしまったのかもしれない。


夕妃は頬に残る神尾の唇の熱に胸をときめかせながら、ごくり、と息をのんだ。



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