こいつ、俺の嫁。




テツの後ろに隠れていたのにテツに左手を掴まれたことによって自然と体が前に出る。




さらに左手をテツの方へと引き寄せられて体がテツとピッタリと密着する。
テツの温もりに鼓動を高鳴らせてる場合じゃなかった。




だって見てしまったから。




テツが自分の左手であたしの左手を掴んでいた。
それによってテツの左手薬指に光るものと、あたしの左手薬指に光るものが重なるように見えること。




そして先輩の口から出た懐かしい質問。




テツ(こいつ)はわざわざ先輩や同僚にこれを言いたくてあたしを呼び出したんだ。




最初はあたしをからかうために言っていたと思っていたこのセリフ。




それがもうからかうためのものじゃなくてテツの本音だと気付いたのは高校生になってからだった。




"次はここな。"そういって口付けをされた薬指には約束通りシルバーのリングが光る。




からかわれてるだけだと思ってたあの時の自分は知らないんだろうな。




「…こいつ、俺の嫁。めちゃくちゃ可愛い、俺の嫁」




こういわれる日が来るなんてことを。




END



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