溺甘プレジデント~一途な社長の強引プロポーズ~

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「そんなに難しい顔をして、何かあったの?」

 助手席の私を気遣う言葉にハッとした。


「特に何もありませんよ」

「他社の人間には関係ないって?」

 寂しそうな表情に、申し訳なくなる。
 鳥さんを手配してくれたことも、こうして食事に連れ出してくれることも、私を思ってのことと感じるからだ。
 桃園社長が運転する2シーターで、揃って無口になってしまう。



「……先ほど、車の中で考えていたことなんですが、ご相談してもいいですか?」

「もちろん」

「実は、葛城は社内で近しい社員を下の名前で呼ぶ風習があるんです。新入社員の頃はそれが羨ましかったりもしました」

「へぇ。あんなクールな人がね」

「私も含め、広報の人間は大概そうです。秘書の方も」

 桃園社長が相槌を打って、目の前の鉄板で焼かれたA5ランクの国産和牛ステーキを頬張っている。


「ちょっとしたことがきっかけで、思わず私がそれをやめてほしいと言ってしまったんです。私を名前で呼ばないでほしいと」

「……ちょっとしたことって?」

「贈ってくださった鳥の置物の一件です」


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