本当の君を好きになる




「側にいれない分、俺は影で支えることを決めていた。今、不自由な思いをしている分、将来は少しでも楽に過ごせるように……。

だがな、後悔してるよ。もっと違う方法があったんじゃないかってな。本当なら、側にいて子育てをするのが一番大切なんだろうなって。でも、今さらそんな自信もなくてな。」




少しずつ語られる父の想い。その一つ一つを噛み締める。






「……こんな俺だが、一つだけ覚えておいてほしい。……子どもの事を考えない親なんて……子どもの事を好きじゃない親なんて……いる訳ないんだからな。

辛い時には、側にいてやりたいし、楽しい気持ちも共有したい。……俺の人生は、お前たち一色だ。」





ボロボロと目から涙が溢れる。

拭っても拭っても、溢れ出して止まらなかった。






「……泣くなよ。」



「……っ!……父さっ……んっ……!……ごめっ……!!」



「……悪いのは俺だ。謝るな。」





そう言いながら、父の鼻をすする音が聞こえる。


少しの間、何も言わず二人が鼻をすする音がリビングに響いていた。

楓奈さんは、いつの間にかいなくなっていた。






「……そういえば、お前就職するのか?この通帳は、湊が就職する時に渡してくれって頼んだんだが……。」



「……そのつもりだったんだけど……。」



「……どうした?」



「……俺、やっぱり進学したい。」




「……それが良いだろう。焦らなくて良い。自分がやりたいことをすればいいんだ。」



「……うん、ありがとう。」





父は俺の言葉に、優しい笑みを浮かべた。





止まっていた時間は、ようやく動き出したようだ──。



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