こっち向いて、ダーリン。【改訂版】

俺のなにより確かなもの

そのまま逢川家を出て無心で歩き、気づくと河川敷に座り込んでいた。


河原の近くで遊ぶ子供。

キャッチボールをする小学生。

仲良く散歩してる老夫婦。


ちらほらといる人を遠目に見ながら、ポケットから取り出した煙草をふかす。


怒りや悲しみ、言葉にできない、複雑な感情。

あんなに高ぶっていたのに落ち着きを取り戻し冷静になると、なんて愚かだったんだと自分を殴りたくなる。


…何やってんだ、俺。


休学の理由を確かめたかっただけなのに、逢川の部屋を荒らして逢川の親父にキレて、一体何してんだ。


逢川が休学すると聞いてから、頭ん中が正常に作動していない。

俺はただ、逢川を守りたいと思った。

でも守り方なんてわからねぇ。


逢川の親父にもっと他に言えたはずなのに、なんだってあんなこと言っちまったんだ。

もっとマシなこと、言えなかったのかよ。

キレて暴走しただけじゃねぇか。だっせーな。

大体、逢川はどうしたかったんだよ。全て俺の勘違いだったら、取り返しがつかねぇぞ。

休学は自らの希望だったかもしれねぇし、あいつの親父が言ったように本当にしつけでああなったのかもしれねぇ。

いや、いくらなんでもそれはねぇか。


「……」


空を仰ぎ、ふーっと大きく煙を吐いた。

白い煙は瞬く間に大気に消えていく。


…馬鹿だな、俺。

俺が誰より一番の馬鹿だ。


ちくしょ…


「深瀬くん!」
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