To a loved one 〜愛しき者へ〜

本能寺の変

《ぷるるるる》
徳川七瀬の携帯電話が鳴った。

━━浜松女子高天守。

「もしもし。」
七瀬は電話に出た。

『もしもし、佑美だけど。』
電話の相手は、織田佑美だった。

「佑美さん、どうしたんですか?」
と、七瀬が訊く。

『特に用事があった訳じゃないんだけど...。
今、私は摂津も治めてるじゃん。』
と、佑美は言った。

「はい、佑美さんは近畿(きんき)一帯を治めてる大大名です。」
と、七瀬は答えた。

『大大名は大袈裟(おおげさ)だよ。』
と、佑美は笑ってから、
『摂津は美味しい食べ物とか沢山あるから、遊びに来たら?』
と、続けた。

「いいんですか?」
と、七瀬が言った。

『うん、京都で幾つか用事があるから、その後なら会えるし、先に来てれば?』
と、佑美が言った。

「有難うございます。」
と、七瀬は答えた。

━━安土女学園天守。

『毛利攻めは順調?』
電話を切った後、佑美は羽柴麻衣にメールをした。

『かなり手強いです。』
すぐに、麻衣から返事があった。

『分かった、先に玲香を向かわせてから私も行く。』
と、佑美は返信をした。

『お手数お掛けして、申し訳ございません。』
と、麻衣。

『いいよ、場合によっては、そのまま九州も制圧するから、丁度良い。』
と、佑美は返した。

それから、明智玲香に、
『麻衣の毛利攻めの応援をお願い。』
と、メールを送った。

『かしこまりました。』
と、すぐに玲香から返信があった。

そして佑美は、百五十人程の家臣の女子高生を連れて、安土女学園を出発して、山城地区京都にある、《料亭・本能寺(ほんのうじ)》へと向かった。

料亭・本能寺で、朝廷・眞衣の使者と面会する予定なのだ。

(佑美様にとって大切なのは...羽柴さん?)
メールを返した後、玲香は思っていた。
(私...佑美様の事が...)

━━料亭・本能寺。

佑美は、眞衣の使者と面会していた。

「帝より、織田佑美様を太政大臣(だいじょうだいじん)・関白(かんぱく)・征夷大将軍(せいいたいしょうぐん)の、いずれかお好きな役職をお任せ致したいと、申し付けられて来ております。」
使者が言った。

太政大臣・関白・征夷大将軍、どれも役職の中では最高クラスである。
これは、将軍不在の戦乱の世で、朝廷の眞衣が、織田佑美をナンバー1女子高生と認めた事を意味する。

「有難うございます。」
と、佑美は頭を下げてから、
「ただ今、安芸の毛利を攻略しておりますので、そちらが片付いてから、ご返答させて頂きたく思います。」
と言った。

「なるほど、それは大変な時期ですね。
かしこまりました。
帝には、そのようにお伝え致します。」
と言って、使者は帰っていった。

佑美が、返事を保留にしたのには、毛利攻めの他にもう一つ理由があった。

《朝廷すら待たせる事が出来る!!》

という事を、世に知らしめる事である。
もはや、ナンバー1女子高生は織田佑美である。

料亭・本能寺は宿泊施設も隣接している為、佑美は今夜、本能寺に泊まる予定である。


━━玲香は夜明け前に、山城地区亀山(かめやま)女学院を出発した。

坂本女子高を出て、亀山女学院経由で羽柴麻衣の援護に向かうところであった。
その数、一万三千人。

(佑美様の気持ちが他の子に向くのは嫌...佑美様を私だけの佑美様に...したい...。)
玲香の想いは、徐々に募っていき、もう限界まで来ていた。

「━━佑美様を...討つ...。」
と、玲香が呟くように言った。

「え!?」
近くにいた家臣が、玲香を見た。

「敵は本能寺にあり!!」
玲香は叫ぶと、
「全軍、これより本能寺に向かいます!!」
と、号令を掛けた。

そして、明智玲香の軍は本能寺へと向かった。


━━料亭・本能寺宿泊施設の佑美の部屋。

「佑美様!!」
家臣の女子高生が、部屋に飛び込んで来た。

「どうしたの?こんな朝早く。」
と、佑美は言った。

━━時刻は午前四時頃。

「大軍が押し寄せて来ました!!」
と、その家臣は言った。

「大軍?車とかは分かる?」
と、佑美は訊いた。

「黒い集団で、中心に黒のトヨタ・スープラがいるので、恐らく明智玲香様です。」
と、家臣は答えた。

「何!?玲香!?」
佑美は驚いた。

てっきり毛利軍など、佑美と敵対している軍かと思っていたからだ。

「驚いていても仕方ない。
迎え撃つよ!!」
と、佑美は言った。

「かしこまりました。」
と、家臣は言った。

━━百五十人対一万三千人。

更に寝込みを襲われた上に、朝食の支度をしていた料亭の厨房が、玲香軍の攻撃で引火してしまい、本能寺は大炎上してしまった。

いくら佑美でも勝ち目はなかった...。
佑美は、討ち取られるくらいならと、最期は自ら命を絶った...。

織田佑美、高校三年生。
散り際までも、美しかった...。
< 25 / 46 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop