To a loved one 〜愛しき者へ〜

江戸幕府

愛知県三河地区岡崎女学院天守。

「石田絵梨花は、死なせないで。」
徳川七瀬は本多花奈を見て、
「出来るだけ、無傷で連れて来て欲しいの...。」
と言った。

━━石田絵梨花とは、意見が食い違う事が多かったが、彼女の才能に惚れ込んでいた。
絵梨花とは、二人きりでゆっくり話し合い、平和な世の中を作ろうとしていた。

「かしこまりました。」
花奈は返事をして、天守を出ていった。


━━数日後。
七瀬の願いは叶わなかった。

葵会の女生徒達が、逃げていた絵梨花を捕まえて、京都府山城地区鴨川(かもがわ)の川原で、処刑してしまったのだ。

石田絵梨花、高校一年生。
心優しき美少女の、短い一生であった...。

「七瀬様、西軍に付いていた大名達を、何らかの形で罰さないと、示しが付きません。」
と、花奈は言った。

「うん、そうね...。」
と、七瀬は答えた。

確かに、二度と争いが起きないようにするには何らかの処分が必要と、七瀬も考えていた。
そして、戦後処理を花奈達に任せた。


━━花奈は、『改易(かいえき)』と呼ばれる処分を行った。
西軍の大名から、支配していた地区の一部を没収して、東軍の大名に与えるというものである。
それに加えて、大名が支配している地区の変更も行った。

上杉史緒里は、今回の関ヶ原の戦いのきっかけを作ったとされて、厳しい処分を受けた。
新潟県越後地区春日山女学院の大名から、山形県出羽地区置賜郡(おきたまぐん)の米沢(よねざわ)女学院の大名にされた。
領地は、四分の一程まで減らされた。

豊臣蓮加が、高校入学と同時に引き継ぐ予定だった領地も、四分の一程まで減らされ、大阪府摂津・河内(かわち)・和泉(いずみ)の三地区のみとなった。

花奈は密かに、真田純奈を恐れいてた。
いくら徳川珠美が戦慣れしていないとはいえ、三万五千人の女生徒を、たった二千人の女生徒で返り討ちにした実力者だ。
今後の為にも、純奈は処刑するべきではと考えていた。

━━そんな時、純奈の妹で東軍に付いていた、真田美彩が頼み込んで来た。

「姉達の無礼をお許し下さい。」
と、美彩は懇願した。

「分かりました、命はお助けしましょう。
ただ、西軍に付いた二人には、信濃地区から出て頂きます。
信濃地区は、美彩が担当して下さい。」
と、花奈は言った。

「ありがとうございます。」
美彩は頭を下げた。

━━そして真田純奈・未央奈姉妹は、和歌山県紀伊(きい)地区にある九度山(くどやま)女学園の、高等部と中等部へと転校させられた。

その頃、七瀬は朝廷の眞衣より《従一位》の官位と、《征夷大将軍(せいいたいしょうぐん)》の令外官を授かった。
ただ、眞衣は《関白》の令外官は、麻衣の死により朝廷に返還されたが、麻衣の妹の蓮加が高校生になった時に授けようと考えていたので、七瀬には関白の令外官は授けなかった。

━━眞衣より幕府を開く事を許可された七瀬は、豊臣麻衣の時代に任されていた、関東地方を政治の拠点にしようとした。

東京都武蔵地区江戸(えど)女学院を大改修して、そこを政治の中心になる学校とした。
江戸女学院の場所から《江戸幕府(えどばくふ)》と呼ばれた。
徳川七瀬の苗字から《徳川幕府(とくがわばくふ)》とも呼ばれた。

━━元号も今までの《太陽》から《希望(きぼう)》に改めた。
希望元年、江戸幕府の誕生である。

元々、積極的に何かをするタイプでもなかった七瀬は、早々と将軍の役職を妹の珠美に譲って、自分は静岡県駿河地区の駿府女子高へ移り、珠美を見守る役に徹した。

━━領地を減らされた豊臣蓮加ではあるが、麻衣の頃からの家臣達にも慕われていて、まだ中学二年生ではあるが、《正二位》の官位と《右大臣(うだいじん)》の令外官である。

蓮加と七瀬は、京都府山城地区二条女学院で会見を行った。

「駿府女子高三年、従一位、徳川七瀬でございます。」
と、七瀬は頭を下げた。

七瀬は、《征夷大将軍》を譲ったので、《従一位》の官位のみである。

━━蓮加は《正二位》で、七瀬の一つ下の官位なので、本来なら、蓮加から挨拶するのだが、相手は豊臣蓮加なので、七瀬なりの気遣いである。

従一位の七瀬を目の前にしても、蓮加は堂々としていた。

「大坂女学園中等部二年生...。」
蓮加は少し間を置いて、
「正二位、右大臣、豊臣の...蓮加でございます!!」
とハッキリと言った。

中学二年生とは思えない、このしっかりとした態度に七瀬や花奈など、立ち会った全員が驚いた。

さすがは、麻衣の妹である。

今後、徳川幕府を脅かす存在になりそうな予感だ...。
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