人としてヒトになる
始まり
19○○年。1つの命が生れた。元気な男の子だ。名前は大悟。後に母に聞いたのだが名前の由来は初めての男の子だったので男らしい名前でって事だそうだ。
因みに今の段階での家族構成は父、母、姉二人、大悟だ。
神奈川県横浜市での出来事だ。
幸せ一杯の人生を送るのかといえば実はそうでない。
大悟は物心ついたときから虐待されていたのだ。そう父は薬物依存症で薬が切れては母に暴力を振るい幼い大悟にも暴力は及んだ。
風呂に頭を沈めて窒息させたり頭を鷲掴みにして椅子の角に目を押し付けられたり等された。
姉二人には暴力は及んでいなかった。
そして5歳の頃に母は出ていった。幼い3人の子を残して。
父は長女だけ連れて帰る、長女だけが俺の子だ。そう言って1つの上の姉と大悟を残して去っていった。
残った2人は母のお母さん、おばあちゃんに引き取られた。そこにはおばあちゃんと母の兄が住んでいた。
最初は怖かった。母が凄く好きだったから、母がいないところでの生活は凄く心細く毎日母に電話して「いつ帰ってくる?」と言っていた。
1つの上の姉が小学校に行き母の兄とおばあちゃんは仕事。当然残されたのは大悟1人。退屈で仕方がない。退屈しのぎに外に出て姉の小学校まで行こうとして迷子になり泣きわめいて交番に行き、おばあちゃんが迎えに来る。それを何度か繰り返した。だがここで心が折れないのが大悟だ。道を覚えて小学校までたどり着いたのだ。しかし学校はまだお昼、結局おばあちゃんが迎えに来て怒られた。次は家のすぐ横にある市民の森にチャレンジした。帰ってくるのに丸1日かかった。けれでも日が経ってもやはり母がいない寂しさはぬぐえなかった。それを知ってか知らずかおばあちゃんは良く遊びに連れていってくれた。知り合いのカラオケ屋、知り合いの健ちゃんの家、未だに名前を知らない優しいおじちゃんの家、おかげで迷子もなくなり日が経って行くのは早かった。そして吉報が入ったのだ。母が帰って来るのだ。約1年ぶりに。嬉しくて夜更かしをしてしまった。そして母が帰ってきた。母は泣きながら抱きついてきた。大悟も力一杯抱きついた。今となれば1年は早いがあの頃の1年は凄く長かった。思えば姉は小学校、母の兄とおばあちゃんは仕事、当然だが保育園には1度も行っていない。誰も送り迎えの時間がなかったのだ。そして帰ってきた母は唐突にこう言った。「大阪に行こっか?」
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