眼鏡を外した、その先で。
石鹸で滑らせれば抜けやすくなると聞いた覚えがあって、慌てて洗面所に飛び込む。
温めるよりも冷やした方がいい気がして、水を出し石鹸を塗りつける。
しかし、いくらやっても指環は抜ける気配がない。

「最悪……。この世の終わりよ……」

季節は冬。
凍るように冷たい水にさらされ、指は真っ赤になってしまっている。
もう感覚すらないのに、抜けない指環に泣きたくなる。

私がこんなことをしてしまったと知ったらきっと、高原は私を軽蔑する。
嫌いになる。

そんなの、高原が結婚してしまうことよりももっと怖い。

高原に嫌われたら私、……生きていけない。


「お嬢様?
先程からなにをなさっているのですか?」

「た、高原!?なんでもないわよ!」

不意に背後から掛けられた声に慌てて水を止め、左手を背中に隠す。
高原は怪訝そうだけど……とぼけてみせなきゃ。

「そうですか?
……先程また、私の部屋にお入りになりませんでしたか?」
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