ブラック・ストロベリー
唐突











キスされた。


でもたぶん、その割には落ち着いていたと思う。

だって、余裕ぶってないと、なんだか負ける気がしたのだ。


上手いとか下手とかわかんないけど、わたしは初めてだった。
なんか、あっけなかった。べつに、相手が相手だから、嫌じゃなかった。





ただ、やっぱりアイツには、言葉が足りない。







「ミサキちゃん、なんで最近屋上来なくなったの?」


同じクラスのアイツのバンドメンバーの剛くんが、休み時間わたしのもとにやってきた。


「あ、まあ、最近忙しくてさ」

「アオイとなにかあった?」



剛くんの目は一直線にわたしを向いてて、たぶんどうせアオイと何かあったことわかってる。

だったら最初からそう聞けばいいのに。



「まあ、いろいろ?」


「じゃあ、アオイと全然話してない?」

「まあ」


話してないも何も、だいたい最後にわたしはあいつを殴った。

たぶんグーで。思いっきり。だってまだその感触ちょっと残ってる。



「駄目だよ、アオイとちゃんと話してよ」

「…しばらく、屋上に行くのやめるの」



史上最高に気まずい。

だって、キスされた理由も聞かないまま、わたしはアオイの腹にグーパンして逃げた。


そこで学んだ、うかつに男子高校生の部屋に上がらない方がいいって。
DKは、ベットさえあったら獣になるのかもしれない。



「なんで?」

「…だから、いろいろあったの」

「は?キスでもされた?」

「は?」


やってしまった、と思ってももう遅い。

目の前ではにやにや笑ってる剛くんがいて、ふーん、へーえなんてそれはもう他人事のように楽しむ。まあ、他人事なんだけど。



「どこで?アオイんち?」


そこまでも当ててしまうんだから、剛くんはタチが悪いのだ。



「ふーん、で?なに、なんでそっからこの展開になってんの?」


訳が分からない、とでもいうように剛くんはわたしをじろじろ見てくるのでスネを蹴っ飛ばした。



「逆にどうなったらこの展開にならないのよ!」

「いや、付き合うだろ、ふつう」



ふつう、ってなに?

だいたい、アオイが普通じゃないことは剛くんはだってわかってるでしょ。

アオイは言葉にしないんだよ、大問題でしょ。



「…アオイはなんでキスしたの」

「好きだからじゃねーの?」

「誰を?」

「いや、おまえ以外にだれがいんの」


馬鹿なの?なんてひとこと付け足してきた剛くんの顔をまじまじと見つめた。


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