ブラック・ストロベリー





「なあ、なんで逃げようとすんの」



屋上についても、ちっとも腕を離そうとしないで、いつもの場所まで行けば、座ろうとしないでわたしを見た。




「自分がよくわかってるでしょ」

自分からキスしといて、なんで逃げるのって、なに。

バカなんじゃないの、こっちは初めてなのに、勝手に奪って、ハイ終わりって、こっちはそれで元に戻れるわけないだろ!


「怒ってんの?」

「……」


怒ってるよ。

当たり前だ、怒らない人なんていない。



「何に怒ってんだよ、キスしたことか?謝ればいいのか?」


そういわれて、悔しくて顔をあげて思いきり睨んだ。


「なんでそんな軽いわけ?謝れば済む問題じゃないでしょ?だいたい、」

「はじめてだった?」

「、」

「へえ、はじめてか」


ふーん、そう言ってなんか嬉しそうに笑ってるからなんか怒る気力もどんどん失せた。



「アオイは慣れてどうでもいいって思ってるかもしんないけど勝手に奪って何にも言わないとかありえない」

「言わせなかったのおまえだろ」


言葉に詰まった。
だって、何言われるのか怖かった。

ひとこと、謝られるだけ、とか。
なんもなかったような顔されたら。とか。


あのせいでアオイと元通りになることはないってわかってた。


「-だって、今のままで、じゅうぶん、楽しかったから、アオイが普通なのが悔しかったんだよ」


女子とあんまかかわらないくせに、きっと元カノは何人もいると思う、だって、顔がいいから。


絶対本人に言わないけど、周りが顔がいいって言ってても否定するよ。

わたしはアオイを、顔で好きになったわけじゃないから。



「俺が普通に見えたわけ?」


「どーみても普通でしょ、こっちは今でも逃げ出したいくらいなのに、余裕で、むかつく」


「へえ、じゃあ俺もしかしてポーカーフェイスなのかも」

「はあ?」


「大体さあ、俺がなんでキスしたか考えねえの?」

「考えてもわかんないわそんなの、言葉にしない人の気持ちなんて何にもわかんない」



「俺が好きじゃないやつにキスするようなやつだと思う?」



知らないよ、アオイならするんじゃない。だってほんとは、女の子大好きでしょ。




「俺は好きなやつしか部屋に入れないし、しょっちゅう二人きりになんかならないし自分から歌なんて聴かせねえよ」


意味、わかる?

アオイの手のひらが、わたしの左腕からおちてきて、左の手のひらと重なった。



アオイは、すぐ手を繋ぎたがるけど、わたしはその意味を怖くてずっと聞けなかった。


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