俺様社長の溺愛宣言
「…このまま化粧室に行って、化粧を直してからおいで。課長や亜香里ちゃんが、その顔見たら、心配するから」

そう言った奏は、優しく私の背中を押すと、先にオフィスに向かって行った。

私は、奏に言われた通り、化粧室に向かって鏡を見て驚く。

「…スゴい顔…確かにこれ見たら、驚くし、何事かと心配するわね」

この顔を見た奏が笑わなかった事に感謝しつつ、慌てて顔を洗った私は化粧をし直した。

…その後、オフィスに向かった私は何事もなかったように仕事を始める。

誰も、私の異変に気づかなかったのは、全部奏のおかげだろうなと、思いながら、仕事を進めていった。

午後の業務は課長と進めていた。二人で書類をもって歩いていると、向こうから零士が秘書と共に歩いてきた。

私と課長は、サッと頭を下げる…?!

零士の後ろを歩いていた秘書が、私が持つ書類の上に、紙切れを置いていった。

それに気づいたのは私だけ。

課長にバレないようにそれをポケットにそっとしまった。

…社長と平社員がこんなことをしていることが周りにバレれば、零士の地位が危ぶまれる。

それだけはどうしても避けたかった私は、気が気じゃない。

「…渡辺さん?」
「…え?あ、はい?!なんでしょうか課長」

突然声をかけられ、少し声が裏返ってしまった。

「…うん、顔色が優れないからどうしたのかと思って」
「…そ、そんなことないと思いますよ。課長の思い過ごしです。あ、これ、営業課に持っていきますから」

「あぁ、宜しく。私は、総務課だから、こっちに」
「…宜しくお願いします」

何とか、この場を切り抜けた。
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