以心伝心【完】

Happiness


「ねぇ、旅行行かない?」

卒業式のあと、それぞれの打ち上げが終わって帰宅した午前6時。
圭一とあたしの家で何故か泥酔したごっちゃんとシラフにならざるを得ないアヤちゃんが押しかけてきて、ソファにドカリと座って、ごっちゃんがニコニコというよりヘラヘラしながら言った。

「...それ、今言うこと?」

さすがの圭一も苛立ち隠せないトーン。
それも当然で、あたしも圭一も1時間前に帰ってきて、お風呂に入って、たった今ベッドに転がったところ。
一瞬で寝落ち出来たのを無理やり起こされて、見てないけど自分の顔が重力に耐えきれなくなって酷すぎる顔やってことくらいはわかる。

「卒業旅行、行かない?4人で!絶対楽しいと思うんだぁ」

酔っ払いをソファに座らせたアヤちゃん。その隣で支えるのも別にかまわない。
でもなんで住人の圭一とあたしがフローリングなのか意味がわからない。ていうか、眠すぎてもうどうでもいい。

1人で座るのが辛すぎて圭一にもたれかかるけど、それも不安定。
飲んでるし、眠いし、支えがないしで、2人で支えあってもたれ合う。

なんとか圭一が目をこじ開けて2人を睨むけど、酔っ払いとその介護人には無意味。

「マジで帰れ」
「2人が旅行行くって言うまで帰らない」
「わかった。行くから帰れ」
「真は?」
「行くから今日は帰って」
「ほんと?」
「本当。だから帰って」
「歩、2人とも行くって言ってくれたし帰ろうぜ」
「嫌。場所決める!」
「バカか、決めねぇよ。真、来い」
「圭ちゃん言葉悪い...」

圭一が不機嫌マックスな声で立ち上がり、玄関のロックを確認してリビングに戻ってくると、あたしの腕をひいて立たせる。
そのまま腰に手を添えてリードされるように圭一の部屋に向かう。

2人はどうするんだろうとか思うけど、もう眠すぎてそれもどうでもいい。

「え、圭ちゃん?」
「俺ら寝るからお前ら真の部屋使って寝ろ。アヤ、真のベッドで寝るなよ」
「え、待って、待って、圭ちゃん」
「真、先に寝てて。あと、後藤に部屋着貸していい?」
「え?うん...」

なんか聞こえてるけど、理解するために脳を動かしたくなくて、圭一の言われるがまま部屋に入る。

久しぶりに入る圭一の部屋。
普段は別々で寝てるからほぼ入ることはないけど、圭一の匂いがして落ち着く。
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