以心伝心【完】

「あたし以上にいい女なんて、そう簡単に見つかんないって」
「・・・そうだな」
「あたしの事、バカにしてんでしょ」
「んなことない」
「ほんと、嘘ばっかり」

泣いたせいで鼻声になったあたしに文也は笑う。
久々に交わす冗談も以前のあたし達みたいだ。元に戻った感じがする。

これが本来のあたし達のカタチ。あたしが半ば本気の冗談言って、それに呆れたように文也が笑う。

「嘘じゃない。でも、ちょうどいい」
「どういう意味よ」
「俺はお前しかいらないから、お前以上の女を探す手間が省ける」
「っバカじゃないの!」

今度は自分でもわかった。胸の奥からキューッと締め付けられて、次第に目頭が熱くなって自然にこぼれた涙。

文也が笑うから、あたしも釣られて笑うけど、今日何度目かのぼやける視界で捕らえたのは、うっすらと潤んだ瞳であたしを見つめる文也の顔。愛おしそうに触れたあたしの頬は熱を帯びて急上昇する。

「真っ赤じゃん」
「うるさいっ」
「あー、ヤベ。圭ちゃんが言ってた意味がわかるわ」

ギュッと抱きしめられて、文也の匂いに包まれる。さっきとは違って、優しく抱きしめられる。
預けるように頭を肩に乗せると、そうするように決められているようにあたしの頭を撫でる。

“幼なじみ”と“彼女”の違いはこういう部分なのかな?と考えて、キュンとする。
今まで感じたことのない感覚に“運命”すらも感じてしまうくらい。




その日は数年ぶりに文也のベッドで昼前まで寝た。
幼い頃から一緒に寝ていたからおじさんとおばさんがあたしのことも考慮して買ったらしいセミダブルのベッド。シングルみたいに狭くないけど、寄り添いあって眠った。

目が覚めたのはあたしが先。まだ眠る文也の変わらない寝顔を眺めてた。
背中に回してた腕をそっと離して、眠る文也の頬に触れる。相変わらず綺麗でスベスベな肌してる。ほんと羨ましいくらい。

じーっと眺めてると、何の予告も無しにパッチリと目を覚ました文也。

「おはよ」
「お、はよう。そんな目覚め方だったっけ?」

本気でびっくりしたから目を大きく開いてパチパチと瞬きを繰り返すと、「寝すぎだろ、お前」と呆れられた。

「え?あたし今起きたよ」
「俺は2時間前に目覚めたけどね」

どうやら寝顔を先に見られていたのはあたしの方だったらしい。

「起こしてくれたらよかったのに」
「起こしたら帰るだろうが」

そりゃ帰るでしょ、と言うと「だからだよ」と、あたしを抱きしめた。




-END-
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