千日紅の咲く庭で
「いい加減、気付けよ。馬鹿花梨」


岳は少しだけ苦しげに呟くように吐き捨て、もう一度大きくため息をついた。


2人の間に、重たい空気が流れていった。
玄関先で向かいあったまま、2人して動けずにいる。

29年間、岳との間にこんなに重たい沈黙が流れるなんて初めてのことだ。

岳だってこんな空気は気まずいにきまっている。

一瞬、小さく息を吸った岳は、私から視線を反らした。


「今日は、俺家に帰る。このままここに泊まったら、花梨にひどいことしてしまいそうだから」


岳がその言葉を口にした時には、岳は私に背を向けて、玄関の扉に手を掛けていた。

私の返事なんて聞くこともなく、岳は逃げるようにして足早に私の家を後にした。

< 115 / 281 >

この作品をシェア

pagetop