マザー症候群

最終章


「えー。博広堂と競合プレ!」
 美波は、胸の高鳴りがうねりのように激しく押し寄せるのを感じていた。
 広告代理店第2位のあの天下の博広堂と、競合プレゼーテーション。久し振りに興奮の嵐。相手にとって不足はない。
 美波は思わず身震いをした。
 営業の井浪が1階から駆け足で制作部のある2階の美波の席へ。電話の続きを直接話す為だ。
 「沢部長。競合プレ。引き受けてもらえますよね」
 井浪が息をはあはあ言わせながら早口で言った。
 「そのつもりだけど」
 と、美波、平然とした顔で。
 「それは、有難い。沢部長、頼りにしてます。この仕事、絶対に取りたいんです。お願いしますよ」
 井浪がオーバーに両手を合わせた。

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