マザー症候群

 美波と井本はせっせと後片付けをしていた。
 皿を並べながら井本が。
 「先輩、あれは少し言い過ぎと違いますか。私やったらあれだけ言われたら、きっと立ち上がれませんわ」
 「あの女には、あれ位はっきり言った方が親切なのよ。母親を敵に廻すとどれだけ怖いか思い知ったか」
 と、美波。
 「怖い。怖過ぎる。先輩を敵に廻さずに良かった」
 井本がオーバーに胸を撫で下ろした。
 美波、テーブルをダスターで拭き終わると、椅子の下に目をやった。
 「これ何?」
 「彼女のお土産みたい。出し忘れたのよ。きっと。彼女かわいそう」
 井本、敵に憐れみを。
 「甘いものみたいだし。食べて上げようか」
 甘いものに目がない美波が。
 「いいんですか」
 「いいのよ。うちに持って来たものだから。どうせ余りおいしくはないと思うけど」
 甘党の美波、言葉は超辛口。


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