叶えてあげる。

「貴女は緋色薔薇の牢に入ってもらうわ。私にとっての薔薇は浄化の象徴なの。そして緋色は痛み。この花も温室で育てているわ」


痛みの紅い牢には一番多くのものが入っているわ。痛みで愚かを浄化するのが一番手っ取り早くて五月蝿くならないもの。


「………………ゃょぃ…………ちゃん………………」


さつきさんはそう呟いた。会いたいのか分からないけれど、二人が巡り会うことはもう無いわね。可哀想だけど死んでしまって私のように姉に追われるよりはましだと思うけどね。


「もう会わせないわよ」



なんだか憎くなって強く言ってしまったわ。もう二度と会わなくなると言うのに……。


「さあ、着いたわ」


牢の重い扉を開いた。ここの扉は一番分厚くて開くと空気が変わる。すぐにマスクを付けて中に入った。


心の無いものの声が実に不愉快で耳を塞ぎたくなるわ。でもさつきさんがいるから無理ね。これからやよいさんも来るって言うのに……気が重くなるわ。


「ここが紅い牢よ。でも入ったら気を付けてね、薔薇の棘が床や壁に張り巡らせてあるから」


痛みの牢はその名の通り棘で痛め付ける牢なのよね。可哀想だけどここに入ってもらうわ。


「や…………やよいちゃんに……会わせないで下さい」


なによそれ……なにもしなくても叶えないといけない願いじゃない……。もう生きてるうちには会えないんだから……。


「叶えてあげる」


嫌だけど叶えてあげるわ。会わせる気なんて無いしね。


最後にさつきさんはにこりと微笑んで牢の中に入っていった。足には棘が刺さったはずなのに悲鳴ひとつあげなかった。ただ今までに溜まった血の上を歩く"ピチャピチャ"という音だけが牢の部屋に響いた。
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