高貴なる社長のストレートすぎる恋愛に辟易しています。
時頼さんは何で兄貴も一緒なのか、とぶつぶつ文句をいいながらも、次の営業先に向かっていった。

当然、事務所内は藤崎社長とわたしだけで、互いのパソコンのキーボードを打つ音だけが流れていた。

終業時間になって、藤崎社長が口を開いた。

「つむぎさん、ちょっといいでしょうか」

「はい、どうされましたか」

さっき親睦会がどうのこうのっていっていたから、その話なんだろうか。

藤崎社長の座る隣にそっと近づいた。

「僕に教えてくれませんか?」

「何をですか?」

ちらりと上目遣いでわたしをみつめる。

メガネの奥の瞳にわたしの心の奥底の気持ちがひっぱられそうな、そんな力を感じた。

そんな子どもだましなSFっぽい能力がないのってわかっているんだけど。

「恋愛ですよ」

「恋愛?」

突拍子もない話にびっくりする。

しかし、藤崎社長はにこやかに笑ってはいるものの、冷静なままだ。

「至極簡単で難しい恋愛をつむぎさんにレクチャーしてもらいたいものです」

「そ、そんな。だってわたしは」

といいかけた瞬間、藤崎社長は右手の人差し指でわたしの唇を制した。

「少しずつ教えてくださいね。というか、いくつか問題を出させてもらいますが」

びっくりして体がかたまって、藤崎社長の指をはね返すことができなかった。

しばらくして、人差し指が離れる。

「しゃ、社長」

「つむぎさんはどういう方が好きなんでしょうか」

藤崎社長の目の色が変わった。

仕事のときや冗談をいうときの甘くやさしい目の輝き方とは別に、狙いを定め集中力を研ぎ澄ましたような目の輝きだった。

「たとえば、こうやって彼氏がいるのにもかかわらず近づいてくる男とか」

「やめてくださいよ、そんな」

「一途なひとが好みですよね」

「……え、ええ」

これ以上いたら藤崎社長に妖艶な火がついてそのままエスカレートしそうな雰囲気だ。

急いで自分の席に戻り、カバンをとる。

「ますます手に入れたくなりましたよ、つむぎさん」

「お、お先に失礼します」

後ろを振り返ると、藤崎社長は先ほどまでわたしの唇が触れていた人差し指にくちづけしていた。
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