あなたに捧げる不機嫌な口付け
「祐里恵。俺は話し相手が欲しいんじゃない」


私の言葉を、唸るみたいな嗄れた声で恭介さんが低く遮った。


これ以上聞いても空回るだけで、ちゃんと届かないのは明らかだったから、私はもう何も口に出さなかった。


受話器の向こうに続く見知った部屋は静かだったけど、恭介さんの中で潜めた感情が、熱量が、密やかにごうごうと噴き上げて煮えたぎっている。


そんな、無理矢理押さえつけたみたいな、ひどく抑揚のない口調。


知らず知らずのうちに私の喉がひりついて、顔が強張って、足が止まった。


——この、ひとは、だれ。


なんでこんな。こんな怖い口調で私を呼ぶの。


「もう一回聞くけど。来るのか来ないのか、どっち」


確かに恭介さんなのに。恭介さんのくせに。


全く、なんて嫌な予感だろう。


きつく奥歯を噛み締めながら、靴先を睨む。


アスファルトを踏み締めるローファーのくすんだ焦げ茶色が、脳裏に蘇った鳶色の瞳と重なった。
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