あなたに捧げる不機嫌な口付け
「……でも、よかった。彼氏と彼女になれて、よかった」

「っ」


くしゃりと顔を歪ませたから、小さな呟きに泣きそうになる。


……ああやっぱり、今までのあれこれは、結局のところ、付き合って、が言いたかったのだ。

その一点だけが気がかりだったんだ。


私も確認が欲しかった。


あの曖昧な関係のときは、好きだと言うだけでは駄目だったから。


――結局のところ、私たちは二人とも怖がりで、口下手で、不器用で。


どうしようもないほど、意地っ張りなんだと思う。


「好きって言って」

「……それも、何回めなの」


甘えるみたいに首元に顔を埋める恭介さんに、笑いながら好きと言った。


笑いながら好きだよと返ってきた。


ぎゅう、ときつく抱きしめる。


丸まった猫背な背中が愛おしかった。


「好きだよ、恭介さん」

「うん。俺も好きだよ」


絶対これからも言わないけど、私がキスを許すのには訳がある。


相変わらず恭介さんは口癖のようにキスが好きだからだと言うけれど、それはやっぱり外れている。


決してキスをするのが好きなのではなくて。

恭介さんが近いこともあるけど、何より。


私は、好きとか何とか、気持ちを伝えるのは照れて苦手で、上手くいかない。


でもキスならできる。

むしろキスなら素直になれる。


だから。
< 234 / 276 >

この作品をシェア

pagetop