あなたに捧げる不機嫌な口付け
「祐里恵、手出して」


言われるままに右手を開けば、ちゃらりと鍵がのせられた。


何、これは。


目で問うと、にっこり不吉に笑って私の手の上から一緒に握り込んで、手ごと鍵を握らせる。


「俺ん家の鍵」


……うわあ、いらない。全然いらない。


「……不用心だね」


祐里恵だから渡すんだよ、などと囁くので、再び眉間にしわが寄る。


意味が分かるだけに、対応に困るんだけど。


けぶる視線に私はジト目を返した。


「早く帰れば」


えーひどーいつめたーい、とか言ってないで、本当に早く帰ってくれないかな。


「早く」

「えー」

「は、や、く」

「……しょうがないなあ」


残念そうに呟いて、美しく笑い。


妖しく私を覗き込む。


「じゃあね、祐里恵」

「……さようなら」


とりあえず呟くと、諏訪さんはさらに笑みを深めて背中を向けた。


明るい髪が月明かりにくすむ。


綺麗な顔をした迷惑な人は、私の手に小さな重みを残して、曲がり角に消えていった。
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