あなたに捧げる不機嫌な口付け
溜め息がちに呟くと、諏訪さんは静かに言った。


「信じるさ」

「なんで?」

「ちぐはぐだったんだよ、祐里恵」


ちぐはぐって何。どこが。


肩を怒らせた私を、諏訪さんが宥めた。


「……懐かしいな。もう、懐かしいんだな」


諏訪さんの口からこぼれた嗄れた囁きが、空気に混じってそっと消える。


「その人隣だし、お酒飲まないし、勧めたらすごい困った顔するし」

「…………」

「何歳ですか、とか聞いても秘密です、だし。まあ、女性だからそれは当然の反応かもしれないけど」

「…………」

「大学生って言うから何されてるんですかって聞いたらさ、何してると思いますか、だろ。ん? ってなるじゃん、結局教えてくれないし」

「…………」

「学部くらいさ、普通教えるよ。大学生じゃない人じゃない限り」


そうか。私は誤魔化してはいけなかったのだ。

何でもいいから、適当に近くにある大学の学部名かサークル名かを言わなければいけなかったのだ。


「飲まないのは運転するからとか弱いからとかかと思ってたけど、それ言われたら納得して」

「…………」

「高校生かよって思ったんだけど、覆すレベルでさりげなく気遣ったりしてていいなあと思って」


あと、ものすごく好みの美人だった。
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