あなたに捧げる不機嫌な口付け
間をゆったり取って、私にも本心だと分かるようにいろいろをちらつかせて、朗らかな笑みと真剣な目を向けてくる。


……これだから。


祐里恵、と優しい声が私を呼んだ。


「俺は祐里恵が人としてすごい好きだし」

「…………」

「祐里恵の優しいところも、すっごい好きだよ」


誰よりも優しい言葉を、誰よりも不真面目な人が、誰よりも真剣に言う。


私を肯定する。


なんてふざけた状況だろう。


それでも嬉しい私は、なんて馬鹿なんだろうか。


「……とことん馬鹿だね、諏訪さん」


こんな、たった数回会っただけの私を気遣うだなんて、よほどの物好きだ。


「そうかもしれないな」


微妙な表情で顔を上げた私と視線を合わせて、諏訪さんはのんびり大きく笑った。


「まあ、とにかく。俺は祐里恵と一緒にいて楽しいから問題ないってことだよ」

「……そう、みたいだね」

「だからこれからもよろしく、祐里恵」

「…………暇が、あればね」


何度も口にした逃げ道を返すと。


「作らせてみせるさ」


諏訪さんは不敵に微笑んだ。
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