あなたに捧げる不機嫌な口付け
「諏訪さん」


視線を前に固定して歩き出す。


「ん?」


こちらを振り返った気配がしたけど、気にしないで断りを放る。


断りも含めて手続き完了なのはお互い分かっている。


「私の脳は都合よくできてるの」


……だから、これを食べるときに諏訪さんを思い出しなんてしない。


寄越された白箱の中はお菓子に決まっている。

私は消えものでなければ受け取らないから。


どうせ保存が利くんだろうけど、さっさと片付けてしまおう。

今日か明日にでも食べてしまって、柵は減らしておいた方がいい。


諏訪さんはふざけて、私は冷たく怒って、諏訪さんは残念がって、私はあしらって、条件を確認する。

これが一セット。


条件を守ってくれると信じるしかない。


下心に対しての返答をくどく締めると、必要なのを知っている諏訪さんは咎めずに呟いた。


「あちゃー、ばれたかー」


目線を投げた私に合わせて、失敗、と、さらりと猫のように笑う。


紙袋を眺めてもう一度笑って。


「残念」

「…………」


持ち手をきつく握りしめる私に目を細める。


「でもきっと、思い出すよ」


確信めいたそれがやけに耳に残った。
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