あなたに捧げる不機嫌な口付け
「はい、座って?」


もだもだ考えているうちに、ぽんぽん、と諏訪さんの真横を指定される。


逃げ道を塞がれてしまった。


「……うん」


散々迷って渋々近づき、ちょっぴり離れて座ってみた。


再び、ぽんぽん、と指定される、場所。


「ここに、座って」

「……うん」


ちょっと言い方が怖い。顔はにこやかなのに全然にこやかじゃない。


渋々ソファーに並んで座って、コーヒーもカヌレも一口ずつ味わって。


そして、やっぱり訪れる問いかけは、明らかに怪しかった。


「ねえ、祐里恵」


カヌレから染み出したみたいに甘ったるい声が響く。


「……何」


頑として手を休めないで、精一杯抵抗して振り向かない私に焦れたように、諏訪さんはもう一度私の名前を呼んだ。


「祐里恵」


嗄れた低音。


囁きがひどく艶を帯びていて、不意打ちに一瞬動きが止まる。


その一瞬を逃がさずに、諏訪さんはあっけなく私の両手を奪った。
< 96 / 276 >

この作品をシェア

pagetop