捕まえてごらんなさいっ!~意地っ張り令嬢と俺様侯爵の溺愛攻防戦~
――ベルフォンヌ様が部屋からいなくなってから、どのくらい時間が経ったのだろうか。

ランスは、一向に言葉を発しない。

ただ私の前に立ったまま、身動きひとつしない。


……これは、どうしたらいいのだろう。

こういったとき、何か声を掛けるべきなんだろうか?

それともランスが話始めるまで、待っていた方がいいのだろうか?


私はランスを見つめながら、そんなことを考えあぐねていた。


その後、下に向けていた目線がゆっくり私の顔へと動く。

熱を帯びた美しい瞳と交わり、ドキリとしてしまう。

ランスは少し顔を赤らめながら、ポツリポツリと話し始めた。



「アリシアはまだちゃんと思い出せていないようだが、君と昔にこの城の庭で出会っているんだ。それはまだ少年、……そう、忘れもしない、私が十三のときだ。この城に父と共に訪れた」

「この城の庭で……?」


ランスは頷く。


私は必死に記憶を辿った。

ランスが十三歳の頃といえば、私はちょうど七歳になったときだ。

まだ貴族の汚れた世界を知らない、無垢な少女のとき。

あの頃の私は、何をしていただろう。


そのとき、私は城に来たことがある……?

この城の庭で、私は……?



――やがて、その開きかけた記憶の扉が、徐々に開放されていく。


あれだけ手を伸ばしても届かなかった扉の先の光が、目の前で大きくなっていった。

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