イケメン双子と、もれなく『腐』の付く残念女子と。

「何コレ……すごいッ」

 碧羽は衝撃を受ける。とともに、己の気持ちを冷静に分析するという、離れ技をやってのけた。

 目線の先、開いたコミックスに描かれた其れは、碧羽にとっての禁断の果実であった。

「そっか、たしかBL……ボーイズラブってジャンルだ。これが……」

――感嘆のため息をつく。

 はじめて目にする同性同士のキスシーン。冗談ではなく、そこに描かれたふたりの男の子は、真剣そのものの表情である。

 上気した頬、溢れる愛の刹那。思いの丈のすべてをその一瞬に詰め込んだ、見開きでのハイ・ポイント。

 これをときめかずして、なにをときめくと言うのだ。碧羽は、ふたりの男の子の甘い雰囲気に見惚れ、恍惚となった。

「こんなすごいものだったんだ。わたし……今まで――損してたんだ」

 ボーイズラブというジャンル自体は知っていた。けれど、これまで読みたいと思ったことはなかったので、敢えて手を付けなかったのである。

 内容を確かめずにジャケ買いしたのは正解だったかも知れない――

 偶然ではあるが、このコミックスに手を出した自身を、手放しで称賛してやりたい衝動に駆られる。
 
 すべからく腐となりて、新たなフロンティアを切り開く。名実ともに、碧羽が『腐女子』としてレベルアップした瞬間であった―――
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