イケメン双子と、もれなく『腐』の付く残念女子と。

 愛情と真心がたっぷりと詰め込まれた、碧羽の素敵お弁当。

 『うふふ。これすべて、僕のためだけに作ってくれたんだよね♪』――などと自惚れる、お花畑のように幸せ思考の凜である。

 チョコレートが大好きな凜。メロンパンも好物だ。コーンシリアルやヨーグルトにはハチミツをかけるほど、見てるほうが虫歯になりそうな、このスイートボーイ。

 そんな彼を熟知している碧羽は、たまご焼きをまるでケーキのように甘く焼く。大多数が塩派と砂糖派に分かれるであろう、シンプルイズベストなたまご焼き。

 だが歯が浮くほどに甘いたまご焼きを、うっとり幸せそうに食べる男は、世界広しと言えど、凜だけだろう。

「ああ~碧羽の作るたまご焼きは、甘くてほんとおいしいよねえ♪ まいにち食べたいよ」

 うふふと秋波(しゅうは)を送りながら、暗に『だから僕の花嫁さんになって』と含める凜。

 けれども相手は碧羽である。そんな心や言葉の機微を読み取る高度なる芸など、持ち合わせているはずがなかった。

「凜のお母さんに作ってもらえば? 毎日食べられるよ」

「あはは。それ冗談……じゃ、ないよね? ほんと、碧羽は手ごわいよね」

「?」

 キツネの耳のような三角いなり寿司をかじりながら、凜は『これは攻め方を変えるべきだよね』と、心のなかで攻略の指揮を執るマエストロが如く、邪悪な策を練るのであった。
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