京都チョコレート協奏曲


適当な時間になって、練習を切り上げた。


ほかの体育会の部活とも共用のシャワー室は、やっぱり今日も空いていなかったから、タオルを使った後、香り付きの制汗シートで匂いをごまかす。


このへんを徹底しないと、教え子がうるさくてかなわない。



おれがアーガイル柄のニットに袖を通すころになって、中学時代から同じ道場に通ってて同回生の文学部院生で歴史系ってとこまで同じの、いちくんが部室にやって来た。


「いち」はニックネームで、「はじめ」っていうのが本当の読みなんだけど。



いちくんは、ライダースジャケットからハイネックのニット、ジーンズに靴下まで、見事に真っ黒のコーディネートだ。


冬も夏も無難すぎる黒ばっかり。


似合うけど物足りないから、1ヶ月ほど前の誕生日にはブルーのベルトをあげた。


今日もそれが唯一の色味だ。



「お疲れー、いちくん。研究室帰りだろ? けっこう遅かったね」



「ああ。教授の雑用で……」



言い掛けた途中でいちくんの口の動きが止まった。


スマホが着信を知らせている。


ポケットの中で振動する音。


いちくんはため息をついて、細身のジーンズの尻ポケットからスマホを取り出した。


ケースを開いて画面を見て、もう1つ、ため息。


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