騎士団長殿下の愛した花

硬い声で態と挑発的な物言いをしたフェリチタに動じた様子もなくほんのりと微笑むと、じゃあ、また明日。とレイオウルが部屋を出ていった。

その背を見送ってルウリエがフェリチタを振り返る。

「フェリチタ様、何故そんなに頑なに拒まれるのです?私やドルステには割と早く打ち解けてくださったのに、レイオウル様に対する態度は最初と変わらないですよね?というかむしろ悪化している気も……」

「……何というか、説明しにくくて」

優しくされればされるほど、歩み寄られれば寄られるほど、近づかれればその距離だけ、反射的に遠ざかろうとしてしまう。

捕虜なのにこんな扱いで、とかもちろん理屈で納得いかない部分もあるけれど、それだけではなくて。

自分の中に彼の存在を一度ほんの少しでも許してしまえば、途端に全てを許してしまうような予感がするから。

だってフェリチタはどれだけ冷たい態度を装っていても、今でもあの琥珀の瞳を見つめる度息が止まって、あの金の髪を見る度この指で触れたいとさえ思ってしまう。

いつも硬い顔をしているくせに、不意に彼の頬がひっそりと赤く染まるから。本当にあの人はずるい。本当のきみはどんな人なの?と、気になってしまう──


そんなこと、レイオウル本人になんて一番気づかれてはいけなかった。


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