エリート外科医の一途な求愛
胸に確かな引っかかりを感じながら、『はい』と返事をしようとして口を開く。
それを、木山先生が明るく笑いながら遮った。


「いえいえ。私の補佐は他の研修医にでもやらせますよ。それより仁科さんには、各務先生の出張に付き添ってもらう方がいいんじゃないですか?」

「え?」


想定外の言葉に、私と各務先生二人が聞き返す声が被った。
木山先生は胸の前で大きく腕組みをして、嫌らしく口角を上げて笑う。


「いや、だって、オファーは日本全国、北から南まで、あらゆるところから来てるだろう? 医局を離れることが多くなる。秘書は同行した方がいいだろう?」

「……わかりました」


木山先生が何を考えてそんなことを言い出したのか、わからない。
そんな気持ちで戸惑う私の前で、各務先生が溜め息をつきながら短い返事をした。


「とりあえず、来月の学会については木山先生にお願いします。それから、今私に入っているオファーについては、病院での手術指導に限定してお引き受けします。あくまでもウチでの業務が最優先。空いた時間で受けられるオファーのみ。木山先生が心配されるほど、医局を不在にも出来ませんから」


ピンと背筋を伸ばし、淡々と答える各務先生の横顔を、私はそっと見上げた。
教授も目を細めて何度も頷いているのがわかる。
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