エリート外科医の一途な求愛
彼は組み合わせていた両手の指を解き、ニッコリと微笑む。


「各務君と二人で話があるから、君はこれで席を外してもらっていいかな?」

「あ、はい。わかりました」


教授の言葉に、私は素直に頷いて頭を下げる。
教授は椅子から立ち上がると、各務先生を促してデスク前のソファに腰を下ろした。
私はそれを横目にドアに向かう。


「失礼しました」


そう言ってドアレバーに手を掛けながら、そっと各務先生の表情を窺って――。


「……?」


一瞬、ドキッとしながら不可解な気分になった。
さっきは教授の言葉に納得したように笑った彼が、今はまたどこか緊張したような、どこか苦し気な、そんな感じで表情を歪めている。


妙な胸騒ぎがして、私は思わず手を止めた。
そんな私の気配に気づいたのか、教授が軽く振り返ってくる。


「仁科さん?」

「あっ……すみません。失礼します」


もう一度慌ててそう言って、私は今度こそ教授室を出た。
背中で押すようにしてドアを閉め、一度肩で大きく息をする。
けれど、中に残してきた二人が何を話そうとしてるのかとても気になって、私は閉めたドアを無意識に振り返っていた。
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