エリート外科医の一途な求愛
断片的に話を聞いていても、注目されているこの機に乗じて、各務先生が売名行為に走っているなんて見方をしてる人もいて、手を挙げて本当のことを話してしまいたくなる。
私の隣に座った千佳さんまでもが、『論文の数って意味なら、木山先生に水をあけられちゃうね』と呟くのを聞いて、私は唇を噛み締めた。


だけど、各務先生がみんなに説明せずにいる心情を考えると、もちろん私は黙っているべき。
ここはグッと堪えて我慢するしかない。


本当に悔しいのは私じゃなくて各務先生だ。
歯痒いけれど、私が庇ったところでなんの役にも立たない。
自分を落ち着かせながら、私は左手首の腕時計に視線を落とした。


飲み会には出席できないけれど、各務先生は今夜、出張先の金沢から帰京する予定だ。
私はこの後、彼のマンションに呼ばれていた。


この飲み会も、申し訳ないけど一次会でお暇する予定。
一時間過ぎた頃から時計ばかりを気にして、ちょっとソワソワしていたのだけれど――。


飲み会を終えて、私はまっすぐ自分のマンションに戻った。
お風呂に入って落ち着いた後、各務先生に電話をした。


『え? 来ない?』


私からの連絡を待っててくれたのか、ほんのツーコールで応答した彼は、私の話を聞いてなんとも残念そうに絶句した。
< 181 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop