エリート外科医の一途な求愛
「先生、着替えないと風邪引きますよ! あ、着替えあります? 私、ユニフォーム借りて来ましょうか?」

「美奈ちゃん、白衣のストックどこだっけ~?」


千佳さんや美奈ちゃんだけじゃなく研修医の女性数人が、いつもより弾んだテンションで各務先生を囲んでいる。
みんな『私が私が!!』と、ここぞとばかり各務先生のお世話を買って出ようと必死だ。


ちょっと華やいだ医局の光景を眺めながら、私は無意識にタオルをギュッと握り締めていた。


なんだ。ほらね、やっぱり。
放っておいても女が群がるっていうのは、全然間違ってないじゃない。
私が心配しなくても、タオルくらい誰かが貸してくれる。
いや、むしろ使って欲しくて、みんながこぞって差し出すだろう。


美奈ちゃんから受け取ったタオルで、割と豪快に髪を拭いている各務先生を睨むように見つめながら、私は彼から借りた黒い傘とタオルを持った左手をそっと背中に隠した。
そのまま、ワイワイキャッキャッと賑やかな人垣を横目に、自分のデスクに戻る。


傘はデスク脇に隠すように立てて、タオルは引き出しに無造作に突っ込む。
そして、議事録をしっかり胸に抱え直すと、各務先生を囲む人垣の前を素通りして、奥の教授室に向かった。
途中、人垣の真ん中から各務先生の視線を感じたけれど、気付かないフリをする。
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