エリート外科医の一途な求愛
なのにどうして、各務先生を追い掛けてきたりしたんだろう。


自分の行動がよくわからない不安と焦りで、私は思わずギュッと自分を抱き締めた。
そのまま、背を屈めて身体を丸め込む。


理由を説明しようとするなら、休日出勤は半日で申請してるし、撮影が中止になったからと言って、私一人さっさと帰るのは気が引けた、とも言える。
各務先生は緊急で仕事に呼び出されたのに、そのまま帰るんじゃ薄情じゃないの?と思ったから、でもいい。
撮影は振替なしで終了になりました、と伝える為、っていうのもアリ。


自分に対する言い訳みたいな理由を頭の中で並べ立てて、私は固く目を閉じた。


――違う。そんな理由でここに来たんじゃない。


あんな、心を探られるような会話の後、私の方に返すべき球を押し付けられたままじゃ落ち着かない。
言おうとして言えなかった拒絶の言葉のやり場に困って、私はここに来たんだ。


いつ各務先生がオペ室から出てくるか。
仕事を終えて帰宅できるか、それすらもわからないのに。
来週医局で顔を合わせる時でも良さそうなのに。
今じゃなきゃいけないような変な焦りで衝き動かされて、私はこんなとこまで――。


身体を前に倒したまま、私は両手で顔を覆った。
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