暗黒王子と危ない夜
「……おれが、エナのそばにいるのは、」
「っ、大丈夫。分かってるから」
また遮ってしまった。
でも仕方ない。これ以上話していたら、笑顔どころか、自分の中の感情が何もかもぐちゃぐちゃに崩れてしまいそう。
「本多くんとエナさん、お似合いだなって思ってた。……エナさんが苦しんでるなら、本多くんはそばにいてあげてほしいって、ずっと思ってた」
やっとの思いでそう告げると、あたしの手首を掴んでいた指先にぐっと力がこもり。
「なにそれ」
低く、どこか怒りを含んだ声にびく、とする。
「……、おれだけだったんだ」
今度は、聞き取れないほどの小さな声が落とされて。
……え?
聞き返す間もなく、指先が力なく離れていく。
「引き止めてごめん。もう、いいから」
拒絶の言葉。
振り向くことなんてできなかった。
部屋を出た途端、もう後戻りはできないんだって。悲しさに押しつぶされそうになる。
カウンターにいた市川さんと視線が絡むと、その一瞬で気が緩んだのか、足元から一気に力抜けた。