暗黒王子と危ない夜
「悪いけど、ここから先は俺のことを知り合いだと思わない方がいい。友達だとか七瀬の幼なじみだとか……そういうの、全部捨てな」
部屋を出て階段を上る。
無機質な足音が響いていた。
「俺も今からあんたのことは、ただの人質としか見ない」
はっきりと線を引かれる。
本気だ……。
もう名前で呼ばれることもないんだろう、な。
通路に出ると、今まで静かだったのが嘘のよう。
大勢の人がせわしなく行き交い、荒々しい言葉を放っている。
その間を縫うように進みながらあたしを引っ張る手のひらも、もう優しくなかった。
「中島さん、裏口に車をつけてあります」
駆けつけた一人がそう声をかけると、中島くんは頷き。
「二番隊と三番隊は待機。一番隊も、初めから本部に乗り込むのは数人でいい。俺が合図するまでは誰も動くなと言え」
口調が変わる。
目つきが変わる。
本当に、知り合いでもなんでもない。
この人は──ただの敵だと思い知らされる。