暗黒王子と危ない夜
「出るって、どうして……っ?」
「隙を突いて、おれがエナを人質にとったんだ。深川と取引きするために。おれが要求したのは、時間」
「……時間?」
「おれは1時間だけ、黒蘭の外に出ることを許されてる。その条件は、外部に知らせないこと、そして武器も何も持たない状態で、定刻までに必ず本部に戻ってくること」
ひと呼吸おいて、本多くんは続けた。
「だからスマホどころか痛み止めすら取り上げられて……。こんな状態じゃ、相沢さんを安全なところに逃がすくらいしかできなくて……ごめんね」
明るく笑ってみせるのは、きっと、あたしを不安にさせないため。
本多くんは、貴重な1時間を……
「もしかして、あたしのため……?あたしを黒蘭から逃がすために……」
「相沢さんのためじゃない、おれのため」
「えっ?」
「相沢さんがいたら、おれの計画に支障がでるんだ。……大事な子は絶対に巻き込まないって、最初に決めてたから」
じわっと涙が滲んだ。
目の奥が熱い。本多くんの優しく笑った顔がぼやけて歪んでいく。
せっかく笑ってくれてるのに、あたしがこんな顔をしちゃだめだ。だめなのに……。
指先で涙を拭った。