暗黒王子と危ない夜
ひと気のない道を抜けて、一つ目の交差点に出た。
大通り。
歩行者の信号は赤。
車が忙しなく行き交う中、ふいに三成くんが何かをつぶやいた。
__“ 不良 ”
そう、聞こえた気がする。
道路をまっすぐ見つめていた彼は、ちらりとあたしに視線を移して、そしてまたすぐに戻した。
その横顔に、さっきまでの明るい表情はなく。
「萌葉の“不良”って言葉を聞いて笑ったのは、七瀬は、そんな在り来たりな言葉で括れるような奴じゃねえと思ったからだよ」
彼の耳にはめられたいくつものピアスが、暗闇にきらきら輝いて。
その中でもひときわ目立つ真っ赤な色に、思わず寸秒、目を奪われる。
「お前、さっき西高の連中に犯されかけたんだよな?」
「え……あ、うん」
「七瀬もあーいうこと平気でやるぞ。立場が逆じゃなくてよかったな」
「………、」
うそだ、なんて
今度は簡単に言えなかった。
車のヘッドライト、街頭、月明かりに、照らされて輝く赤いピアス。
それらと対称的な昏い影が、三成くんの瞳に落ちていた。