【BL】夕焼け色と君。


朧気な記憶を頼りに、周辺を見渡す。

俺の最寄りから二駅先。


駅から走ったせいか、息が少し上がってしまった。


日椎の話だとこのへんのはず……。

しばらく歩くと日椎の言っていた特徴と一致する家を見つけた。

表札には「日椎」の文字。


ここだ……。


インターフォンを押すのに少し戸惑った。

ここまで来たんだ……今さら帰れない。

小さく息を吐いて指先に力をいれる瞬間、先に家のドアが開いた。


中から出てきたのは若い女性。
確かお姉さんがいるって言ってような……。
雰囲気は違うけど、美人な人だな……。


目があった女性は驚きに瞬きを一回。


「家に何かご用ですか?」
「あ、えっと楓くんと同じ大学に通ってます、山碼と言います。楓くんがしばらくお休みしていたので、お見舞いに来たんですが…」


女性は少し意外そうな表情を浮かべた。


「楓の友達なんて珍しいわね。でもごめんなさい、今ちょっと出掛けてしまっているの。」


出掛けてる?ってことは体調が悪いわけではないのか。


「急用だったかしら?」
「え、」
「すごく息を切らしているから」

女性は困ったように眉尻を下げる。


「いえ、大丈夫です。急に押し掛けたのはこちらなので。失礼しました。」


軽く頭を下げ、立ち去ろうとした俺を女性は呼び止めた。

俺は思わず足を止めて、女性に向き直る。

女性はまじまじと俺を見て、遠慮がちに口を開いた。


「もし違ったらごめんなさい。もしかして、あなた夕日が好きだったりするかしら?」
「え………あ、はい。そうですけど……?」


俺の返答に女性は目を輝かせて近付いてくる。


「そう、あなたがそうなのね。」
「あの……?」
「急にごめんなさい。私は楓の姉の美凪(ミナギ)って言います。よろしくね。」
「よろしくお願いします……。」


美凪さんは俺を見て終始微笑んでいる。


「ふふ、あなただったのね。そうだ、ちょうど良かった。少し頼まれ事をしてくれないかしら?」
「え………あ、はい。」
「これをね、楓に届けてほしいの。」


美凪さんは自分の手にあった一冊の本を差し出してくる。


それは綺麗なオレンジの夕焼けの写真集だった。


「これ楓が市の図書館から借りてきた物なんだけど、今日が返却期限なのに、あの子忘れて行っちゃって。」
「いいですけど楓くんの居場所なんて、僕知りませんよ?」
「大丈夫、その辺は任せて。」
「それなら…」
「ありがとう。」


差し出された本を受け取る。

「楓、随分変わったわ。あなたのおかげね。」
「そうなんですか?でも僕は何も……」
「ううん、あなたのおかげよ。それ、」


美凪さんが指したのは渡された本。


「そういう風景とか綺麗な景色とか、あの子の一番嫌いなものだったもの。」


美凪さんは少し寂しそうに笑う。

一番、嫌い……?
でも楓は俺のために調べてくれたり、一緒に見に行ってくれたり……。
そんな嫌いなようには見えなかった。


「嫌いってどういう意味ですか?」
「そのまま。あの子には、見えないから。」
「見えない?」
「あら、聞いてない?あの子ね、ーー色が判別出来ないのよ。」


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