イジワル上司に甘く捕獲されました
「そうなの、それでね……申し訳ないんだけれど、美羽ちゃんが引っ越ししてくる当日に東京で説明会に出席しなきゃいけなくなっちゃって……」

思いがけない真央の言葉。

「ええっ、そうなの?
……そっか、でも仕事だもんね……仕方ないよね……」

一気に不安が襲ってくる。

残念だし、引っ越しが心配になるけれど仕方ない。

そう納得していた矢先。

更に驚くことを真央から聞かされた。

「ごめんねぇ、説明会は数日間だけだからすぐ帰れるんだけれど……。
まだ決定じゃないんだけど、八月には海外研修プログラムに旅立っちゃうんだよね……」

「エーッ、そんなすぐっ?」

部屋に私の大声が響く。

「ホンットごめんね、美羽ちゃん。
まさか私も合格すると思ってなかったから……」

心底申し訳なさそうな真央。

「う、ううん。
だって真央がずっと希望して頑張っていたことだから……
それにおめでたいことだし……。
ど、どれくらい行くの?」

おそるおそる聞いてみる。

「……半年、かなぁ……」

「そ、そんなにっ?」

無理に押さえつけていた不安もあいまって。

思わず声が裏返る。

「予定なんだよ、予定!
その国の情勢にもよるし。
私は恐らくハワイになるみたいなんだけど……。
最低三ヶ月から最長半年なんだって。
プログラムを全部終えて帰国になるから。
大体皆いつも平均して四ヶ月くらいで帰国しているみたいなんだけど……」

真央と一緒に暮らせない。

それは思ってもいない出来事で。

やっぱり不安が募る。

でも。

「だ、大丈夫だよ、真央。
私だって社会人なんだしっ。
半年したら、一緒に暮らせるんでしょ?
心配しないで行ってきて!」

自分に言い聞かせるように、私は元気に言う。

そう、真央の夢が叶うのだ。

姉として応援しない筈がない。

ここで妹に心配をかけるわけにはいかない。

「……でも」

私を札幌に誘ったのに居なくなることを気にしているのだろうな、と姉の勘で気付いた私は。

「真央、私が札幌の辞令の話をした時にチャンスだって言ってくれたでしょ?
今回は真央のチャンスなの。
だから心配しないで行ってきて、ね?」

「……美羽ちゃん」

私は電話ごしに真央に伝わるよう願いを込めて。

「おめでとう、真央」

ニッコリと心からのお祝いの気持ちを込めて笑った。





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