イジワル上司に甘く捕獲されました
「……ハイ」

不機嫌そうな低い声。

相手の声は聞こえないし、勿論誰かはわからない。

「は?
今から?
何でだよ、無理。
忙しいから……って、オイッ。
……あー……ったく。
面倒くせえな、わかったよ」

どうやら一方的に何かを言われている様子で。

普段見慣れない焦った様子の瀬尾さんの姿に私は驚く。

電話を終えた瀬尾さんは私の方を向いて申し訳なさそうに言った。

「……悪い、橘。
……尚樹からの呼出し。
今から出なきゃ行けなくなった」

「は、はい。
あっ、片付けは終わってますので、じ、じゃ、私も失礼しますっ」

一気に捲し立てて玄関に向かう。

「……悪いな。
昼メシまで作ってもらったのに」

「いえっ、元はといえば私が連れて帰ってきてもらったので……」

靴を履きながら言う私に。

「……いや」

少し考えながら、玄関ドアを開けてくれた瀬尾さん。

その表情を不思議に思いつつ、帰らなければいけないことを残念に思っている私がいて。

「し、失礼します」

と、頭を下げた私の髪を一掬いして。

「寝顔はすごく可愛かったぞ」

と、耳元で囁いた。

その言葉に。

ボンっと私の顔が赤く染まって。

意地悪な瀬尾さんはクックッと笑って。

気を付けて帰れよ、と言ってドアを閉めた。
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