ニセモノ*短編
智いや、柳本さん、とは会社で出会った。

課は違ったけれど休憩室で話したのがきっかけ。

結婚指環をしてるのなんて勿論一度も見たことがない。

あれからそろそろ半年経つ。

でも最近浮気が気になって。

思いきって聞いてみたの。

…まさか自分が浮気相手だったなんて思いもせずに。


「ねぇ…智?」

「ん?どうした?」

「浮気…してる?」


智の表情が固まった。


「…」

「ごめん。ち、がうよね?」

「…梨華。」


真面目な顔をしてこちらに向き直る。

貴方の真剣な顔、大好きだったけど今は見たくない。
お願い。笑って。
笑ってそんなことないって、否定して?


「梨華。別れよう。俺はもうお前には会えない。」

「ど、して?」

「言ってなかったけど俺…俺結婚してるんだ。」

「え…?」

「黙っててごめん。」


智が家を出ていくときの顔が頭から離れない。
最後の温かい優しい手が忘れられない。

と同時に智が家にあげてくれなかったのも
デートのドタキャンが多かったのも
突然電話で素っ気ない態度になったことがあったのも
全て。

1つに繋がった。

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