桜の愛図
鈍感なのか、ばかなのか。
言葉をなにひとつ返さない私に気づくことなく、櫻はまた言葉を紡ぐ。
「俺ねぇ、春って超好きだよ〜。
あったかいし、花も綺麗だし、それに恋の季節だし?」
あごに手をそえて、ウインクひとつ。
自分に向けられたそれに顔をしかめ、嫌悪感をあらわに唇を開く。
「私は春なんて嫌い」
きょとん、と瞳を丸くして、そのくせまるで心に響いていないかのようにけろっとしている。
そうなんだ〜覚えとくね、なんて、そんな適当な返事は求めていない。
はあ、とまたため息をこぼす。
それはまるでころりと転がるよう。
ただただ自分の不運さを呪う。
櫻と同じクラスになってしまったこと、同じ委員になってしまったこと、どうしようもないとはいえ後悔しかない。
ああ、本当に。
どうして、神様。
こんな手の施しようのないばかで、浮かれた男と、新学期早々縁を繋いでしまったの。
「まぁとにかく、これから1年同じ保健委員として。よろしくね、春ちゃん」
いいえ、ご遠慮願いたいです。
できることなら、一生。