ある日、ビルの中、王子様に囚われました。
会議室から出ると、エレベーターの中でお祖父さんが待っていてくれていた。
黒岩さんがボタンを押して私たちをまってくれている。

「副社長に会社を任せる前に、ガンを一掃出来て良かったな」
「はい。良い作戦でしょ。……まあ社長を心配してくださる方がいたら少しは状況がちがっんですがね」

二人は、成功した悪戯に喜んでいる。
あの地獄みたいな会議は、今後の会社やおじいさんに近づかないようにさせるための証拠集めの場だったんだ。

「本当は倒れていなかったんですね。元気なんですね?」
念を押す様に聞くと、お祖父さんは頷く。

「倒れた私のお見舞いに来たいと言ってくれたのは、君と明良だけだった」

目を細めて泣きだしそうな顔をしてくれた。
さっきまでの一ミリも隙のない厳しい顔が嘘のようだった。

「あの、おじいさんって呼んでもいいですか? 私も財産なんていらない。けど……お祖父さんはずっと小さいころから欲しかったんです」

こんなに格好いいお祖父さんだなんて、――きっと子どもの頃なら自慢できただろうな。
そう思うと私も胸がせつなくきゅっと締めつけられた。

「それは、悪いが駄目だ」

「えっ」

「私は『おじいちゃん』って親しみこめて呼ばれたいかな。駄目かな?」


< 79 / 85 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop