ヴァージンロード <続>Mysterious Lover
9. 向き合う過去
一体何から話せばいいんだろう?
何度もシミュレーションしたはずなのに、思いはなかなか言葉になってくれない。
オレは立ち上がって窓辺に立ち、外の景色を眺めるふりをした。
7階の部屋からは、
駅前のにぎやかな通りだとか、商店街や住宅街だとかがすっきりと見渡せた。
あれは、どんな街だっただろう。
もう、覚えていない。
唯一思い出せるのは、何かに怯えるお袋の姿。
大きな物音や、怒鳴り声なんかが聞こえるたび、真っ青になって震えてたあの姿——。
オレは、記憶を過去へ、たどっていった。
「物心ついた時、オレは小さなアパートでお袋と2人暮らしをしてた。
オレたちはお袋の旧姓の神崎を名乗っていたけど、実際に工藤との離婚が成立してたのかどうか、よく知らない。
ただ、工藤から逃げていたことだけは、確かだった。
何度か引っ越ししたのも、そのせいだったと思う。
どこに逃げても、最終的に工藤は俺たちを見つけ出した。
外面だけはいい奴だったからさ、大家さん言いくるめて勝手に部屋に上がり込んで。そしてお袋やオレに手を上げて、逃げたことを口汚く罵った。