副社長と愛され同居はじめます

愛してる




再会したのは、祖父の代からの縁と大学同期のよしみで荒川俊次と仕事の話をしに荒川家を訪れた時だった。



突然乗り込んできて、俊次に掴みかかろうとした若い女を止めた。



「人を騙してバックレたあんたよりはよっぽど上品に生きてるわよ!」



声だけじゃなく、怒りのあまりか全身が小刻みに震えていた。
押さえ込んだ、細い手首からもそれが掌に伝わる。


彼女が幼い頃に出会った荒川の長男一家の女の子だと、すぐに気が付いた。


そして、あの優しかった夫婦が亡くなり、姉弟二人遺されて苦労しているのだということを。


放っては置けなかった。
あの幼い頃、確かに救われた。


その恩を返さなければと、確かに最初は同情だったのかもしれない。


大学を辞め、勤め先を探す彼女のために、根回しをしてナルセ商事に入社させた。


そうでなければ、弟を一人前にするために彼女は早々に夜の世界にデビューしていたことだろう。


この就職難のご時世、そうでなければナルセほどの好条件で大学中退という学歴しかない彼女を雇ってくれるとこなどない。


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