副社長と愛され同居はじめます
だだっ広い試着室は、四方八方鏡だった。
そして試着くらい一人で出来るのに、どういうわけか店員が一人一緒に入ってきた。


「ちょ、あの、一人で着れますから!」

「まあ、ご遠慮なさらずに。私達が叱られてしまいます」



さあさあさあ!
とあれよあれよと脱がされて、私は上下バラバラのこれまた安物のランジェリーを店員の目に晒すことになった。


そっと見ないふりをしてくれた店員は、すごく優しいと思う。


もういい、とりあえず着ればいいんでしょうどうにでもしてくれ、と言われるままに黒のドレスに腕を通す。



「あら……まあ」



店員が、ざっと私の全身を見て感嘆の声を漏らした。



「なんですか」

「いえ、とても綺麗に着こなされてらっしゃるので……身体のラインが綺麗に出てよくお似合いです。手足も長くて」

「はあ……ありがとうございます」



美人だった母のお陰で、器量には恵まれた。
貧乏ゆえの粗食と駅まで本来ならバスを使うところを毎日徒歩で乗り切っているおかげで、ダイエットとも無縁だ。


いや、生活そのものがダイエットともいえるけれど。



「少々お待ちくださいね。後できちんとヘアセットも致しますけど、まずは簡単にまとめてみましょうか」

「ええっ?! いや、いいです! って後でヘアセットもするの?!」



勿論ですわ、とにっこりと彼女は笑う。
腕が鳴るわ、とでも言いたげな、職人の顔であった。

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